2010年4月18日日曜日

風の旅人39号

この世の際
人は、世界を観察し、自分の行為を観察しながら、
世界と自分との関係を知ろうとして言葉を作り出した。
宇宙の仕組み、死後の世界、未来などの不可視のものでさえ、
人は、言葉の力で目に見えるものにして、
自分との関係を安定させたいと願っている。

人は、わからないことがあると不安になる。
不安から逃れるために、人の各種の精神活動が発生する。
それでもわからず、不安と怖れに耐えられなくなる時、
人は、自分に都合の良い場所を決めて閉じこもり、
自己防衛のために、言葉を使うこともある。

不安や怖れをかなぐり捨てて、可能性の果てへの旅に出る人は、
世界や、自分の行為を観察しながら、
自分の言葉を編集し続け、
常に捉え難い何ものかに苛まれながら、
言葉が要求するベクトルの延長線上に、運命を切り開こうとする。

言葉は、人をどのようにも導けるが、言葉の中に正しい答えはない。
言葉は、人と世界の無限の関係から次々と生まれる波のようなもの。
わかる領域と、わからない領域の波打ち際で、次々と砕けては消える
言葉の揺籃のなかで、人の意識は育まれていき、
人としての在りようを、何度でも崩し、何度でも作りなおしていく。

どんな人も、世界と自分との関係を探る言葉のベクトルの延長線上に、
生きるに値する何かを必死に求めている。
今生に困難が増えると、手近なもので自らを安定させようとするが、
世界を観察し自分の行為を観察し続ける人は、言葉の力で自分を導き、
時空を超えて連続する関係のなかで、永遠に生き続けることになる。



編集長 佐伯剛

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